| 去年十月、BAMへUシアターの“サウンド・オブ・オーシャン(海の音)”を見にいった時、私が予想していたのはダンスの公演でした。しかし実際にはムーブメントはほとんどありませんでした。定義するのが難しいこの「サウンド・オブ・オーシャン」(これはダンス?音楽?それとも儀式?)は、水というテーマを伝統的な中国の打楽器を通して演劇的に表現する、全幕ものの作品でした。公演は後半にかけて少々大言壮語だった(そして長かった)ものの、全体的に、大変魅力的に感じられました。ビジュアル的なものとムーブメントは少々平凡に感じられましたが、サウンドは決してそうではありませんでした。
台湾のUシアターは僧院のような環境で生活しているパフォーマンス集団です。メンバーたちは、道教の教え(自己啓発)と芸術的な技術を融合させることが人生と芸術創造の目標である、というこの団体の信念に惹かれて集まっています。Uシアターのメンバーは、「厳格な肉体の統制と完全に自由な精神」を獲得するために太極拳、マーシャルアーツ、太鼓、それから最も重要な瞑想という厳しい日々の鍛錬を重ねます。太鼓の師であり、「海」を作曲したウン・チー・ムンは1993年から中国打楽器を指導し、「太鼓を演奏するには、まず瞑想することからはじめなければならない」と就任時から述べていたといいます。
瞑想と演奏の関係はUシアターのとぎすまされた公演で、はっきりと表現されていました。シンプルな僧侶のような衣装に身をつつんだパフォーマーたちは平穏で絶対的な集中力を備えています。動きと視覚的な効果は音に劇的な効果を与えましたが、一番大切な要素は、強くて繊細な、理知的でかつ感情的なサウンドでした。パフォーマーたちの全てを捨てた献身、何年もの厳しい修行、言葉をこえたお互いのつながり、それらが一体となってこのすばらしい音の効果が生み出されたのです。
演出家リュー・チン・ミンとワンは素晴らしく劇的な瞬間をつくりあげました。作品は男性と女性が一人ずつ、それぞれの太鼓(大・中・小)の前にやってくるところから始まります。客席の照明が落ち、観客が落ち着くと、劇場全体が瞑想のために落ち着いた精神の象徴のように感じられます。パフォーマーたちはとてもゆっくりとバチをとりあげます。そして突然、深呼吸をし、いっせいに跳んでドン!と太鼓をたたいた瞬間、照明がパッと明るくなります。観客が息をのむ中、パフォーマーたちは立ち上がり、走りながら演奏を始めます。最初のセクション、「崩壊」はとても早い、奔放でエキサイティングな作品でした。パフォーマーたちは腕を高くあげ、叫びながらそれぞれの楽器を打ち付けます。
続く「流水」はさらに凄いものでした。スポットライトの中、一人の女性がダルシマーのようなギターに似た楽器を奏でます。薄暗い中を他の演者たちが小さな太鼓を持って、儀式的に歩いてきます。そのうち、一人の男性がゆっくりとバチを動かし、ポン!と小さな音をだします。そしてもうひとつ、ポン!雨粒が一つ、また一つ、と落ちていくように、繊細で流れるような、不規則な音の流れを作り出しました。この雨音のシャワーは即興で創られたように聞こえますが、そうではありません。奏者たちが顔色も変えず、ぴったりとそろって音をとめると、雨音も突然とまります。そしてまたトン、トンと音が始まります。パフォーマーたちは変化していく細やかな音の満ち引きの中に存在するようでした。それは私のこれまでの人生の中で最も素晴らしい経験の一つでした。
もう一つのハイライトは銅鑼でした。ステージいっぱいに並べられた大きな銅鑼が全部打たれた時の忘れられない音色、さらに大きな二つの銅鑼の音の胸骨に感じる共鳴、それから最後に最大の銅鑼から生まれる驚異的な音の「波」。音が波動であることをこれほどにも実感したことはありません。Uシアターは、このような科学的な現象を、音を(波動にまで)分解する楽器をかわるがわる用いて、観客を魅了し、圧倒して驚かせる舞台公演を創りあげたのです。銅鑼と太鼓の音が紡ぎ出される中、鐘や鉄鉢、シンバル、コンチ貝(巻貝)の音、そして時折人の声も聞こえます。公演の後、日本の太鼓と比べるとUシアターは「ポップカルチャー」のようだという人と話をしました。彼のいわんとしていることはよくわかりました。“サウンド・オブ・オーシャン”には明らかにニューエイジ的な要素が含まれています。それでもなお、生演奏に時折見られた粗雑さも、ハーヴィ・シアターを満たしたこの音の壮大さを壊す事はありませんでした。“サウンド・オブ・オーシャン”は本物の海ほどは大きく複雑で感情をゆさぶるものではないかもしれません。しかしUシアターは、人間が極度に弱くなった時にそうできるように、壮大で不可解な自然の一部に繋がる事ができたのです。
芸術性 ★★★★
娯楽性 ★★★★
斬新さ ★★★★★
癒し度 ★★★★★
(Updated on 7/23/04) |